あれは忘れもしない、台風が関東を直撃した夜のことでした。外は猛烈な風雨で、私は家の中でただ嵐が過ぎ去るのを待っていました。その時です。一階のトイレから、ゴボッ、ゴボボッという、今まで聞いたことのない不気味な音が聞こえてきたのです。恐る恐る扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていました。便器の水位がみるみる上昇し、茶色く濁った水が便器の縁から溢れ出していたのです。パニックに陥った私は、何をすべきか分からず、ただ立ち尽くすばかりでした。水はあっという間にトイレの床を浸し、悪臭と共に廊下へと流れ出そうとしています。我に返った私は、慌ててバスタオルを床に敷き詰め、水の広がりを食い止めようと必死になりました。しかし、逆流の勢いは止まりません。このままでは家が汚水にまみれてしまう。その恐怖に駆られ、私は深夜にもかかわらず、必死でスマートフォンを手に取り、水道業者を探しました。何件も電話をかけ、ようやく繋がった業者の方に状況を説明すると、原因は豪雨による下水道の許容量オーバーだろうとのことでした。結局、嵐が少し落ち着くまで業者は来られず、私は溢れ続ける汚水をタオルで吸い取り、バケツで汲み出すという作業を、夜が明けるまで続けなければなりませんでした。あの夜の恐怖と絶望感、そして後片付けの途方もない労力は、今でも鮮明に思い出せます。この経験を通して、私は自然災害の恐ろしさと、事前の備えの重要性を痛感しました。もう二度とあんな思いはしたくありません。